
黒又山|鹿角の“ピラミッド”伝説と縄文ロマンを巡る
2025年7月24日
秋田県鹿角市十和田大湯の地に、ひっそりと佇む標高280メートルほどの山──それが「黒又山(くろまたやま/クロマンタ)」です。地元では「クロマンタ」と呼ばれ、円錐形の美しい山容と神秘的な存在感から、“日本のピラミッド”としても知られています。
その姿はあまりにも整った三角形で、遠くから眺めると人工物のようにも見えるほど。地元住民にとっては昔から親しまれてきた存在でありながら、観光地として大々的に整備されているわけではなく、「知る人ぞ知る秘境」とも言える存在です。
なぜ“ピラミッド”と呼ばれるのか?
黒又山が“ピラミッド”と称される理由は、その地形と位置関係にあります。山体はほぼ左右対称の円錐形で、山頂が中心軸に沿って直立しているように見える構造から、「人工的に築かれたのではないか?」という説が古くから語られてきました。
1970年代以降、オカルト雑誌や古代文明ファンの間で「日本のピラミッド」として注目を集め、テレビや雑誌などでも取り上げられたことから、“謎の山”としての人気が高まりました。実際には学術的な発掘調査は行われておらず、その正体は今も明らかになっていません。
この“謎”こそが黒又山の最大の魅力であり、古代ロマンに思いを馳せる人々の想像をかきたてているのです。
周辺の縄文遺跡とストーンサークル
黒又山のすぐ北側には、国指定の特別史跡「大湯環状列石(おおゆかんじょうれっせき)」があります。これは縄文時代後期(約4000年前)の遺跡で、大小の石を円形に並べたストーンサークルが2つ残されています。
この遺跡と黒又山との位置関係から、「黒又山が信仰や祭祀の中心的な存在だったのではないか」とする仮説もあります。実際、大湯環状列石の石組みの中心から黒又山に向けて一直線に視線が通るよう設計されているという説もあり、天体観測や宗教的儀式に関係していた可能性も指摘されています。
また、大湯周辺では縄文時代の土器・石器・住居跡なども数多く発見されており、この地域が縄文文化の一大拠点であったことを物語っています。
黒又山にまつわる謎とロマン
黒又山にはいくつかの“謎”が語り継がれています。中でも有名なのは、磁場異常説です。登山道などでコンパスが正しく動かなくなるという現象が報告されており、これが“山全体に磁力がある”ことを示すのではないかという見方もあります。
また、航空写真や衛星画像で見ても山体が非常に幾何学的であることから、「人工の古墳」「祭祀場跡」「宇宙人の遺構」など、さまざまな都市伝説的仮説も存在します。これらの説はいずれも確証があるわけではありませんが、黒又山のロマンと魅力をさらに高めている要素であることは間違いありません。
地元の高齢者の中には、「昔は山に入ってはいけないと言われていた」という声もあり、民間信仰的なタブーの存在も見え隠れします。
アクセスと周辺の観光スポット
黒又山は、秋田県鹿角市十和田大湯エリアに位置し、道の駅おおゆから車でわずか5分程度の場所にあります。現地には専用駐車場や登山道はありませんが、近くまで車でアクセスし、短時間の散策で山のふもとを巡ることが可能です。
あわせて訪れたいのが、先述の「大湯環状列石」。見学路が整備されており、縄文時代の生活や信仰に触れることができます。道の駅おおゆや、湯瀬・大湯の温泉地を拠点にすることで、1泊2日で“古代ロマン探訪の旅”を楽しむことができます。
なお、黒又山への登山は一般には推奨されておらず、山頂付近には立入禁止の看板が設置されている場合があります。訪問の際は、あくまで周辺からの見学にとどめ、地元の方々や自然環境への配慮を心がけましょう。
まとめ──鹿角に眠る、縄文の記憶
黒又山は、高くそびえる山でも、華やかな観光名所でもありません。けれどその姿には、何千年も前から変わらない、人と自然、信仰と暮らしの記憶が刻まれています。
縄文時代の人々が見上げたかもしれないその稜線を、現代に生きる私たちも見つめながら、“なぜこの形なのか”“何を意味していたのか”を想像する──それが黒又山を巡る旅の醍醐味ではないでしょうか。
鹿角を訪れる機会があれば、ぜひ黒又山にも目を向けてみてください。古代ロマンと静かな感動が、あなたを待っています。
※本記事は、地域イベント「しごとーーい かづの」の関連情報として、鹿角の地元資源を紹介するコラムの一環として掲載しています。