知られざる鹿角の魅力を再検討するイラスト

鹿角市の魅力ともったいなさ――歴史・自然・文化の滋味を伝えきれていない現状

2025年12月24日

秋田県北東部に位置する 鹿角(かづの)市は、四季折々の自然と長い歴史、深い文化を備えた地域です。十和田八幡平国立公園を中心に、神話や民話、産業遺産、郷土食といった豊かな魅力が点在する一方で、外部への発信や観光プロモーションが十分とは言えず、もったいなさが残る地域でもあります。

このコラムでは、鹿角の地理的・歴史的な背景、観光資源と文化の魅力、そして「もっと発信できるはずなのに伝わっていない現状」について、具体例を挙げながら掘り下げていきます。


古代から現代へ――鹿角が積み上げてきた魅力

鹿角の歴史は古く、縄文時代の遺跡が発掘されるなど人類の営みが非常に古い地域です。代表的な文化財としては、約4,000年前の大規模なストーンサークル「大湯環状列石(大湯ストーンサークル)」が挙げられ、2021年には世界文化遺産に登録されました。これは日本列島北部でも非常に稀少な遺構であり、縄文文化の深さを感じさせます。

また、近代化の証として、約1,300年の歴史を持つ史跡尾去沢鉱山があります。かつて国内有数の銅鉱山として栄え、坑道内では地層や産業遺産を間近に体感できる観光設備が整っています。

鹿角にはこれら以外にも、温泉、渓谷、神社仏閣、史跡など多様な観光スポットが点在し、都市部の観光地とは異なる奥行きのある旅を提供しています。


地理と国立公園――“間の地域”になってしまう不思議

鹿角市は、十和田八幡平国立公園という日本屈指の自然観光エリアの真ん中にあります。北側には「十和田湖」、南側には「八幡平」が位置し、いずれも雄大な景観と豊かな自然を抱えています。十和田湖は青森県と秋田県小坂町にまたがっていますが、その主要な観光動線や宿泊・飲食施設は青森県側に集中する傾向があります。

一方、八幡平の最高峰は岩手県側にあり、その登山や観光客の多くは岩手県側へ降りていきます。山を利用する人の多くが鹿角で足を止めず、通過点として利用してしまうことがあるのです。こうした地理条件は、鹿角市が地域の中心的観光地となりにくい背景の一つになっていると考えられます。


近世の歴史と県境の事情――南部藩から秋田県へ

鹿角地方は江戸時代、盛岡藩(南部藩)の領地として位置づけられていました。廃藩置県後に秋田県に編入された背景には、明治政府による県域再編の影響がありますが、この歴史的経緯が現代にも**「県境で分断されたイメージ」**につながってしまっている面も否めません。

東北という広域の中で、歴史的な属領や藩境の影響は、地域アイデンティティや観光資源の発信方法にも影を落としている可能性があります。


神話・伝説の郷――八郎太郎と三湖伝説

鹿角と十和田湖には、古くから語り継がれる伝説もあります。たとえば「三湖伝説」の中で、八郎太郎という人物は鹿角市十和田草木を出生地とし、十和田湖にまつわる神話的物語が語られています。このような地域ならではの民話は、観光ストーリーとしての潜在性が高いにもかかわらず、現状ではあまり知られていません。

この伝説は単なる民話にとどまらず、地域の風土や自然観、人々の暮らしと結びつく要素を多く含んでいます。しかし、物語としての発信が弱く、観光素材として十分に活用されていないのが現実です。


鹿角市がもつ「もったいない資源」

ここまで挙げた歴史・自然・伝説に加え、鹿角にはまだまだ魅力があります。

🏃‍♂️ スポーツ文化

鹿角は駅伝やスキーといったスポーツも盛んな地域です。冬の雪に恵まれる環境は、自然とウィンタースポーツ文化を育み、地域のスポーツ振興に寄与しています。

🍏 伝統食と文化

鹿角が発祥の地とされるきりたんぽ文化も、地域食の重要な柱になっています。観光イベントとしても「きりたんぽ発祥まつり」などが開かれていますが、地域の伝統食としての深堀りや物語化、体験型観光への応用は、まだ発展途上です。

🛣 交通インフラ

鹿角・鹿角郡小坂町には高速道路のインターが複数存在し、物流・観光・企業誘致に有利な立地とされてきました。地理的には交通アクセスのポテンシャルが高く、観光客の行動範囲を広げることが可能です。


プロモーションの「もったいなさ」と課題

にもかかわらず、鹿角市はその魅力を十分に外部へ伝え切れていません。主な理由として、以下のような点が挙げられます。

1. 情報発信の“点”の状態

鹿角には多くの魅力がありますが、それぞれが独立した観光スポットとして紹介されることが多く、「地域としてつながったストーリー」が弱いままです。個別の温泉、遺跡、自然景観があっても、観光客が「鹿角で滞在したい」と感じる物語にまで昇華されていない面があります。

2. 歴史・文化資源の語り不足

縄文遺跡や伝説、民話は地域の文化的な宝ですが、観光客にとってわかりにくいままで放置されていることがあるため、こうした**“深みある物語”**をどう伝えるかが課題です。

3. 観光ルートの断片化

十和田湖や八幡平など周辺観光地への導線がある一方で、鹿角市内の観光ルートとして統合されていないため、「通過地化」してしまうことが多いのです。


それでも前へ――新たな動きと未来

しかし、鹿角市の状況は少しずつ変わり始めています。

• 大きなホテルの改修と周辺の飲食店の増加により、地域内での滞在時間が増えています。

• 企業誘致や産業誘致、そして移住促進への取り組みも進んでおり、地域の活力が再び注目されています。

• 観光ガイドや地域案内人によるツアー展開など、地域の魅力を伝える動きも出てきています。

こうした流れは、鹿角市が「ただ通過する場所」から、「訪れる価値が高い場所」へと変わる可能性を示しています。

まとめ――鹿角の“ストーリー”を再発見しよう

鹿角市は、自然・歴史・文化・伝説が折り重なる豊かな地域です。しかし、それらをひとつの魅力的な物語として外へ伝えきれていない現状があります。個々のスポットは魅力的でも、それが地域全体として統合されたブランドとして語られていないため、観光客の滞在時間や消費行動につながりにくい面があります。

だからこそ、鹿角市にはまだまだ「発見されたがっている魅力」が眠っています。

歴史的背景や民話、自然景観を丁寧に再解釈し、ストーリーとして届けることができれば、鹿角は“東北の知られざる名所”としてさらに広く認知されるはずです。

※本記事は、地域イベント「しごとーーい かづの」の関連情報として、鹿角の地元資源を紹介するコラムの一環として掲載しています。