
毛馬内盆踊り|鹿角の夜を彩る伝統行事とその魅力
2025年7月21日
秋田県鹿角市の南部、十和田毛馬内地区で毎年8月21日〜23日に開催される「毛馬内盆踊り」は、東北の短い夏を締めくくる幻想的な伝統行事です。
その歴史は約400年前、戦国時代にさかのぼるとされ、戦没者の鎮魂と五穀豊穣を祈願して始まったと伝えられています。
現在では国の重要無形民俗文化財にも指定されており、「秋田三大盆踊り」(他に西馬音内、羽後町の盆踊り)にも数えられます。
一見地味とも思われがちなその踊りは、実際に目にすると、静けさの中にこそ宿る圧倒的な気配と、心を打つ哀調を感じることができます。
蝋燭の明かりが照らす舞台──踊り手の姿と通りの演出
踊りが行われるのは、毛馬内本町通り。通常は車が行き交う生活道路が、この3日間だけは静謐な踊りの舞台へと変貌します。
街灯が落とされ、道路脇には蝋燭を並べた行灯が並びます。現代的な照明を排したこの演出が、踊りの静けさと神聖さを際立たせています。
踊り手は、華やかな浴衣ではなく、黒羽織に手甲脚絆、白足袋、編笠を目深にかぶるという異色の装束。顔がほとんど見えないその姿は、故人への弔いという原点を色濃く感じさせ、盆踊りの“賑わい”とは対極にある美しさを見せてくれます。
三種の踊りとその意味──毛馬内甚句・大の坂・甚句囃子
毛馬内盆踊りは、大きく三つの踊りで構成されています。
- 毛馬内甚句:もっとも基本となる踊りで、哀調を帯びた旋律と静かな所作が特徴。老若男女が参加しやすく、地域住民の多くが習得しています。
- 大の坂踊り:テンポが速く、踊り手の技術が問われる演目。笛や太鼓のリズムも加わり、祭りの中盤で緊張感を引き締めます。
- 甚句囃子:踊りの締めくくりとして演じられる、明るく軽快なテンポの演目。観客に最も親しみやすく、祭りの終わりを感じさせます。
これらの踊りは、単なる見せ物ではなく、毛馬内の人々が先祖や土地と向き合い、思いを受け継ぐ精神的な儀式でもあります。
町とともに生きる踊り──地域住民の誇り
毛馬内盆踊りは、単なる観光イベントではありません。
町内に住む人々、近隣の自治会、学校、商店街が一丸となってこの伝統を守っています。
特に、保存会による後継者育成は地道ながらも着実に進んでおり、地元の子どもたちは小学校の授業や地域活動の中で自然と踊りを覚えていきます。
中には、踊り手だけでなく、唄い手・笛方・太鼓方として技を継ぐ若者も多く、家族単位での関与も珍しくありません。
観覧する方へのご案内
開催は毎年8月21〜23日。
観覧の際は、踊りの列に不用意に近づいたり、ストロボ撮影を行わないなど、静かに見守る姿勢が求められます。
地元では、来訪者に向けた特設観覧席や休憩スペース、郷土品の販売も行われており、静かな中にも温かな“もてなしの心”が感じられるでしょう。
毛馬内盆踊りを訪れるなら
鹿角市内の温泉宿(大湯・湯瀬)や道の駅、郷土食店と組み合わせて、1泊2日でゆっくり巡る旅がおすすめです。
近年は「日本のふるさとを訪ねる旅」として毛馬内盆踊りを特集するメディアも増えており、県外から訪れる方も多くなっています。
派手さや賑やかさはないかもしれませんが、心に深く残る日本の原風景がここにはあります。
※本記事は、地域イベント「しごとーーい かづの」の関連情報として、鹿角の地元資源を紹介するコラムの一環として掲載しています。